TALKING ART WITH JACOB OVGREN
2025.05.16「世界がまともなら、誰かに怒られるくらいが丁度いい。」:Jacob Ovgren インタビュー
Jacob Ovgren は、2011年の Polar 設立当初からブランドのビジュアルを手がけてきたアーティスト。過激でユーモアに満ちた彼の作品は、時に保護者からクレームが届くほど。そんな彼の活動を改めて紹介しつつ、創作の背景にある思考を深掘りしてみた。
やあ Jacob。まずは出身地と、Polar に関わるようになった経緯を教えて?
出身はスウェーデン南部のヘルシンボリ。16歳の頃にマルメに引っ越して、そこで Pontus と出会ったんだ。スケートパークで話すようになって、自分の絵を見せたんだと思う。そしたら彼が「ブランドを立ち上げようと思っていて、もし興味があったら何か描いてみてよ」と言ってくれて。そこから実際に動き出すまでは時間がかかったけどね。当時の自分はまだ未熟で、スタイルも固まっていなかった。
多分誰でもそうだと思うけど、最初は他人の作品に影響されすぎて、自分の方向性が見えにくくなる。
でも、あの時からずっと、Polar と関わり続けている。
最初から今まで、ずっと関わっているんだね。
そう。ほんとに小さな始まりだったから、まさかこんな大きくなるなんて思ってなかったよ。
“多くの人がそう思ってるんじゃないかな。ただ認めたくないだけでさ。”
当時は地元の小さなブランドだったのが、今じゃ世界的なスケートカンパニーだよね。その変化は、作品や創作の意識に影響した?
あの頃はもっと細かく描いてた。コンピューターで加工するなんて発想もなかったから、「スキャンしてそのままボードにプリントしよう」って感じ。でも仕事が増えて、ベクターグラフィックなんかもやるようになると、自然とシンプルな方向に寄っていったんだ。複雑な絵も好きだけど、メディアの性質によってはシンプルにしたほうがいい場面も多くて。特にコミックなんかは最初から細かく描きすぎるとあとで大変だから。
Pontus にもたくさんアイデアがあって、彼の方向に合わせていくうちに、自分のスタイルも固まってきた気がする。ブランドの世界観に合わせるのって、意外と良い方向に転ぶんだよね。
アーティストって、そういう調整を好まないイメージあるけど?
そう思ってる人は多いと思う。でも、たぶんそれを認めたくないだけだよ。
子どもの頃から描いてたって言ってたけど、「これでやっていこう」って思ったきっかけは?
うーん、特別なきっかけはないかも。スケートボードのグラフィックとか、レコードジャケットとか、ずっとそういうのに惹かれてた。学校の授業も退屈だったから、その代わりに何か描きたかったのかもしれないし、ただ衝動的に描いていただけかもしれない。でも描き始めてからは、クラスメイトが「それカッコいいじゃん」って言ってくれてさ。それが嬉しくて、もっと描くようになって、自然とのめり込んでいった感じ。
けど今は逆で、誰かに絵を見せるのは不安な時だけ。「なんか違うな〜」って自分で思ってるけど、他の人に見せちゃって、「やっぱり直すか〜」ってなるのが面倒で(笑)。でも、見直して手を加えるってすごく大事なことだとも思ってる。
それができるのは大事なことだよね。多くの人は自分の作品を見直したがらないから。
まあ、かなり大変だからね。でも、作品の中で一番時間かけたところが全体に合ってなかったりすると、やっぱり直すしかない。以前は手作業が多かったから、変更するのが大変で、今はパソコンを使えばコピー&ペーストで簡単に修正できるようになったしね。
Jacob の作品って、ちょっと過激だったり皮肉っぽかったりもするよね。あれって昔から?
そうだね。パンクやメタルが好きだったから、ドクロとか親世代が嫌がるようなモチーフばかり描いていた。でも今の世代にはあんまり響かないから、最近は「ぱっと見かわいいけど、よく見るとヤバい」ってなるような絵を描くのが好き。二重構造っていうか、じわじわくる感じが好きなんだよね。
“自分がスケートを始めた頃って、正直ダサいボードが多かったんだよ。でかいロゴがドーンって入ってるだけのやつとかね。だから、もっといいものをつくる側になりたいって思ったんだと思う。”
長年スケートをやってきた中で、パンクとかに影響を受けたって言ってたよね。子どもの頃、どんなアートやデザインに惹かれた?
そうだなぁ、いろいろあったけど….自分がスケートを始めた頃って、正直ダサいボードが多かったんだよ。でかいロゴがドーンとあるだけとかね。だから、「もっといいものを作る側になりたい」って思ったのかもしれない。その中でも、World Industries とか初期の Santa Cruz は好きだった。全体の美意識がしっかりしてて、ビジュアルにもセンスがあった。でも自分が本格的にスケートにハマるころには、どのブランドもどこか中途半端になってきた印象があって。だからこそ「もっとカッコいいものを自分で作りたい」って自然に思うようになったんだと思う。
Polar で初めて製品化されたアートワークって覚えてる?
最初はボードグラフィックで、「Filling Material」って名前だった気がする。
特に気に入ってる作品ってある?
背景までしっかり描いたやつかな。キャラクターと背景を一緒に描くと、バランス取るのが難しくて。「これ一枚で完成してるな」って思えるものはやっぱり印象に残ってる。
でも、全部に満足しているわけじゃなくて、どれも「もっと良くできたかも」と思ってる。たぶんそれが、次にもっといいものを作ろうっていう原動力になってるんだと思います。
制作プロセスについて教えてくれる?自分で描いたものを Pontus に送っているの?
まずはラフをたくさん描いて、それをスキャンしてパソコンに取り込んで、大きなファイルにまとめる。それぞれの絵が何をしてるかみたいな、ちょっとしたストーリーを作りながら並べていく。まあ正直、かなりごちゃごちゃした状態で Pontus に送っているね。レイアウトって、昔からあんまり得意じゃなくて。だからその辺は Pontus に任せたほうがうまくいくんだよね。それで、戻ってきたものを微調整して完成って流れが多いかな。たまにだけど、ライダーから参考になりそうな画像が送られてきたり、「こういうのがいい」っていうリクエストが来ることもあるよ。
お蔵入りだけど気に入ってる作品ってある?
あるある。使われなかったけど好きな絵、けっこう残ってるよ。ちょっと尖りすぎてたものもあるし、途中で全然違う方向に修正されたやつも。そういうのは全部取ってあって、「Puff Boards」っていう自分のプロジェクトで使えたらいいなって思ってる。
Puff Boards は個人プロジェクトなんだよね?
そうそう。コミックを描きたいって思って始めたんだけど、Polar じゃ出せないような内容を自由に出せる場所って感じかな。アンダーグラウンドっぽい雰囲気の方が、気楽にできるしね。このプロジェクトは、クリエイティブでいるための手段というか、続けること自体が目的になってる部分もある。
それって、ちょっと炎上しそうな内容だったりする?
まあ、そうだね(笑)。正直、世界がまともなら、誰かに怒られるくらいが丁度いい。実際、何人かの保護者から怒りのメッセージは届いたよ。多少ざわつくくらいの方が、逆にリアルなんじゃないかなって思う。
Spring 25 コレクションで出たブランケットのアートワークも、かなり攻めていたよね。あれってどんな世界観で描いてるの?
あれは「現実のちょっと先」っていう感じ。今の価値観がそのまま突き進んだら、こうなるかもなって。たとえば、今の時代に人々が怒ったり議論しているようなことも、50年前の人たちにとっては想像すらできなかったかもしれない。それに昔は女性が足首出すだけで非難されたけど、今じゃ半裸でもOK。それって社会の価値観がどんどんアップデートされてるってことで、その先にあるちょっと歪んだ世界を描いてる感じ。
“Jacobのグラフィックはいつも印象的だった。アメリカ文化を外部の視点から皮肉ってるような感じがして、昔の過激だったスケートグラフィックを思い出させる。” ─ Aaron Herrington
「一日でも描かない日は、無駄な日」って言ってたけど、燃え尽きたりしない?
いや、あんまりないかも。もちろんストレスはあるけど、何かしらはやってる。毎日絵を描くってより、「今日は何かクリエイティブなことをする」っていうのが大事で。新しいトリックに挑戦するとか、木工するとか、最近はリノベーションもしてるしね。とにかく、自分で何かを作るってのが楽しいんだ。既製品をただ買うんじゃなくて、自分の手で形にしたいんだ。
それって、ステッカーを貼る感覚とちょっと似てるんだよね。新しいスケートボードにグラフィックがあるのに、どうしてわざわざステッカー貼ったり、グリップテープに自分でペイントするかっていうと、やっぱり自分だけのアイデンティティを表現したいっていう気持ちからくるんだよね。その感覚が、創作の出発点でもあるんだと思う。
text by Gino Fischer / photos by Nils Svensson